この記事では、補聴器がどのような器具なのか、基本的な構造とあわせてわかりやすく解説しています。補聴器を購入すべきタイミングの見極め方にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
補聴器とは
はじめに、補聴器とはどのような器具なのか、集音器や拡声器との違いとともに整理しておきましょう。補聴器がなぜ必要なのか、どういった方が装着する器具なのかを押さえておくことが大切です。
聴力をサポートする医療器具
補聴器とは、音が聞こえにくくなった際に聴力をサポートしてくれる医療器具です。周囲の音をマイクで集音し、装着する方の聞こえに合わせて加工した上で、聞こえやすい音に整えて出力することで聴力をサポートします。
補聴器は一般的な電化製品などとは異なり、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によって厳格な基準が定められている医療器具です。よって、補聴器を使用するには耳鼻咽喉科で医師による診断を受け、認定補聴器技能者のいる補聴器専門店で購入することをお勧めします。
集音器・拡声器との違い
小さな音を集めて聞きやすくする「集音器」や、音量を増幅させる「拡声器」は、いずれも一般的な電化製品(音響機器)です。単純に音を集める・増幅させるといった機能は備えているものの、一人ひとりの聞こえにくさに合わせることを前提に設計されているわけではありません。
一方、補聴器は装着する方の聞こえにくさに合わせて調整する「フィッティング」を行うことを前提につくられています。この点が、電化製品である集音器や拡声器と、医療器具である補聴器の大きな違いです。集音器や拡声器の中には音量調整の機能が備わっているものもありますが、補聴器のように一人ひとりに合わせた調整はできないと考えてください。
補聴器はなぜ必要?
音が聞こえにくいという感覚は、人によって大きく異なります。たとえば、人との会話が聞き取りにくいと感じたり、音楽などの音声が歪んで聞こえたりするのは、本人にとって大変ストレスを感じることです。こうした苦痛を和らげ、聞きやすくすることが補聴器を装着する理由の1つと捉えてください。
補聴器を必要とする方には、人それぞれ聞こえにくさの度合いや種類に違いがあります。よって、補聴器は一人ひとりの聞こえにくさに合わせてオーダーメイドでつくる必要があるのです。
補聴器の構造をわかりやすく解説
補聴器は小型の医療器具ですが、内部は複雑な構造になっています。近年よく活用されているデジタル補聴器には多種多様な機能が備わっています。なかでも「マイク」「アンプ」「レシーバー」の3つが基本的な構造といえるでしょう。補聴器の基本的な構造は以下の通りです。
周囲の音を拾う「マイク」
多くの補聴器には小型の指向性マイクが搭載されています。指向性マイクとは、音を拾う方向を特定できるマイクのことです。この機能が備わっていることにより、補聴器を装着した方が顔を向けた方向の音を拾いやすくしています。
人の聴力は、周囲の音を等しく拾っているとは限りません。雑踏の中でも会話の声が聞き取れるように、必要な音を判断しながら聞いているのです。そのため、補聴器のマイクも単純に周囲の音をすべて拾うのではなく、「どの方向の音を拾うか」が緻密に調整されています。
音を増幅させる「アンプ」
アンプは、マイクで拾った音を増幅させる役割を担っています。音を増幅させるといっても、単純に大きくすればよいというものではなく、音の強さや高さ(種類もしくは周波数)を感知し、自然に聞こえるように加工しなければなりません。アンプが音を区別して必要な音を増幅させるからこそ、聞きやすい音を出力できるのです。
私たちの暮らしには、普段あまり意識していない生活音などさまざまな雑音があふれています。音声レコーダーのような録音機器は、こうした雑音も人の会話も区別することなく録音するため、直接耳で聞く場合と比べて録音された会話の内容は聞き取りにくく感じるケースが少なくありません。補聴器を装着する方がこのようなストレスを感じるのを和らげることが、アンプの重要な役割といえます。
音を伝える「レシーバー」
レシーバーとは、補聴器に内蔵された小型のスピーカーのことです。アンプで整えられた音の電気信号がレシーバーを介して音声に変換され、補聴器を装着する方の鼓膜へと届けられます。
補聴器を装着する方の聞こえ方に合わせて、レシーバーから出力する音の特性を調整する必要があります。補聴器の調整を表す「フィッティング」には、装着する方の耳の形に合わせるだけでなく、聞こえ方を調整するという意味も含まれているのです。
補聴器を購入すべきタイミング
補聴器の購入に適したタイミングは、どのように見極めればよいのでしょうか。結論からお伝えすると、難聴の程度に応じて補聴器の適応となる基準が定められています。しかしながら、聞こえ方は人それぞれですので、この基準が必ずしも絶対的なものではないという点に注意が必要です。
医学的な基準は40dB
日本聴覚医学会難聴対策委員会では、補聴器を使用する基準を40dB以上(中程度難聴以上)としています。また、WHO(世界保健機構)においても、補聴器の適応は41dB以上と同程度の見解です。難聴の程度分類と基準となる平均聴力については以下を参照してください。
程度分類 | 平均聴力(dB) | 自覚している聞こえ方の例 |
---|---|---|
正常 | 〜25dB | 聞こえ方にとくに問題はない。 |
軽度難聴 | 25dB以上〜40dB未満 | 小声や騒音下での会話が聞き取りにくい。 |
中等度難聴 | 40dB以上〜70dB未満 | 通常の会話が聞き取りにくい。 |
高度難聴 | 70dB以上〜90dB未満 | 大声でないと聞き取れない。 |
重度難聴 | 90dB以上 | 補聴器を装着しても聞こえにくい。 |
ただし、医学的には軽度難聴に分類される聞こえ方であっても、本人にとって大きなストレスとなっている場合や、仕事などの都合で会話を聞き取れないと不都合がある場合には、補聴器を装着したほうがよいこともあります。
日常生活で不自由や不都合が生じていないか
補聴器の購入を検討する目安の1つとして、現在の日常生活で聞こえ方について不自由や不都合を感じているかどうか、という点が挙げられます。たとえば、下記のような場面に遭遇することが多くなっているようなら、補聴器の装着について相談してみてもよいかもしれません。
- 日常会話が聞き取りにくいと感じ、そのことがストレスの原因になっている
- 重要な会話が聞き取れず、不自由に感じることが多くなっている
- 周囲の人や家族などの呼びかけに気づけないことが増えている
上記のような聞こえ方は、各々の生活環境や周囲の人との関わり方によって異なります。したがって、医学的な基準だけでなく本人の感じ方・自覚している状況に応じて、補聴器を購入するタイミングを柔軟に検討することが大切です。
日常会話がはっきり聞き取れるか
家族や知人と交わす日常会話がはっきり聞き取れるかどうかも、補聴器の購入を検討する目安の1つとなり得ます。たとえば、声は聞こえていても話している内容が聞き取りにくいと感じているのであれば、本人にとってストレスの原因となる可能性があるからです。
相手が何と言ったのかわからず何度も聞き返す場面が増えると、人と会話を交わすこと自体が億劫になる場合もあるでしょう。このように、聞こえ方が人との関わり方や接する頻度などになんらかの影響を与えているようなら、本人にとって聞こえにくい状態といえます。難聴の程度分類だけでなく、本人がどう感じているかも大切なポイントです。
聞こえが気になったら早期装用も検討を
聞こえ方は人によって感じ方・捉え方が異なるものです。「健康診断の聴力検査では問題がなかった」「自分より年上でも補聴器を付けていない人もいる」など、購入に踏み切れない理由はさまざまでしょう。
一方で、日常生活で不自由を感じていたり、人との会話でストレスを抱えることが増えていたりするようなら、補聴器の装着を検討するのも1つの考え方です。聞き間違いが増えたなど、気になることがあれば耳鼻科を受診して医師に相談してみてはいかがでしょうか。場合によっては、補聴器を早期装用することで問題が緩和できるかもしれません。
まとめ
補聴器は聴力をサポートするための医療器具であり、集音器や拡声器とは異なります。一人ひとりの聞こえ方に応じてフィッティングを行うからこそ、補聴器は自然な聞こえ方を実現できるのです。
補聴器の基本的なつくりや装着する目的への理解を深め、自分にとって適切な購入のタイミングを見極めてください。聞こえ方に不安やストレスを感じる場面が少なくなれば、日常生活をより快適に送れるでしょう。
- bookmarkQ.補聴器ってなに?
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