補聴器は一般的な電化製品とは異なり、一人ひとりの聞こえに合わせて使用する医療機器です。そのため、補聴器を装用する際には必ず調整(フィッティング)を行う必要があります。
今回は、補聴器の調整時に行われることや、補聴器を装用する際に調整が欠かせない理由についてわかりやすく解説します。補聴器の調整について相談する際の流れも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
補聴器の調整とは
そもそも補聴器の「調整」とは、具体的に何を行うことを指しているのでしょうか。補聴器の調整には大きく分けて「利得調整」「最大出力制限」「音質調整」という3つの要素があります。それぞれ何を調整しているのかを見ていきましょう。
利得調整
利得調整とは、小さな音を聞こえる音量まで増幅するために行われる調整のことです。聴覚が聞き分けている音には、大きな音だけでなくわずかな音も多く含まれています。人の話し声一つとっても、遠くから呼びかける際に大きな声を出すこともあれば、至近距離で話す際には小声で話すこともあるでしょう。このように、小さな音も適切な音量で聞こえるようにするには利得調整が欠かせないのです。
最大出力制限
最大出力制限とは、補聴器を装用している方が不快に感じないレベルまで出力を制限することを指します。補聴器は周囲の音や話し声を増幅するための機器ですが、必要以上に音が増幅されてしまうと「うるさい」「耳が痛い」と感じがちです。さらに、大きすぎる音を聞き続けることは聴覚を司る細胞を傷つけ、難聴を悪化させる原因にもなり得ます。最大出力制限を施すことにより、必要以上の大音量を出力しないよう調整しているのです。
音質調整
音質調整とは、音のバランスを整えて聞き取りやすい音にすることを指します。聴覚はとてもデリケートな感覚のため、単に周囲の音を増幅すれば聞き取りやすくなるとは限りません。音が割れてしまったり、雑音が混ざって聞こえたりするようでは、会話の内容に集中できないといったこともあり得ます。音質調整を行うことによって、補聴器を装用する方が快適に感じる聞こえ方に合わせられるのです。
補聴器を装用する際に調整が欠かせない理由
補聴器を装用するにあたって、調整は不可欠です。調整が欠かせない主な理由として、次の3点が挙げられます。
聴力データにもとづく調整が必要だから
補聴器の調整は感覚で行うのではなく、聴力データにもとづいて行う必要があります。聴力データ収集に必要な聴力測定は主に「気導測定」「骨導測定」「不快閾値の測定」の3つです。
気導測定
音は空気の振動によって鼓膜へ届けられます。空気中を伝わる音をどの程度聞き取れるかを測定するのが気導測定です。気導受話器を耳に被せ、音が聞こえ始める音量を測定します。
骨導測定
人が聞いている音は周囲の空気の振動だけでなく、自分自身の頭蓋骨からも伝わっています。外耳道や中耳を通さず内耳に音を伝えた際にどの程度聞こえるかを測定し、難聴の原因を判別することが骨導測定の主な目的です。
不快閾値の測定
音の聞こえ方と感じ方は人によってまちまちです。よって、どの程度の音が大きすぎると感じるのかを確認するために不快閾値を測定します。不快閾値の測定によって得られたデータを元に、補聴器の最大出力制限を行うのです。
補聴器の利用シーンや利用目的は人によって異なるから
補聴器の調整では、装用する方の年齢や補聴器の使用歴、聞こえ方に対する要望といったデータを元に適した音をつくるための「処方式」という計算式が用いられます。処方式はさまざまな臨床データを解析してつくられているものの、処方式にもとづいて調整された音があらゆる人に必ずフィットするとは限りません。補聴器の利用シーンや利用目的は人によって異なるからです。
よって、補聴器の調整時には実際の利用シーンや生活環境などもヒアリングした上で、一人ひとりに合った最適な聞こえを導き出す必要があります。補聴器の調整にあたって必ずカウンセリングを実施するのはこのためです。
補聴器の形状によっては型を採取する必要があるから
装用する補聴器の形状によっては、一人ひとりの耳の形に合わせて型を採取し、補聴器の形を調整する必要があります。たとえば、耳あな式の補聴器であれば装用する方の耳の穴にぴったりフィットしなくてはなりません。この場合、採取した型に合わせて補聴器をオーダーメイドすることになります。補聴器の形を調整することは、違和感なく装用するためだけでなく、隙間なく装用することで補聴器の性能を十分に引き出すためにも重要なポイントです。
補聴器の調整について相談する流れ
補聴器の調整について相談する際の基本的な流れを紹介します。補聴器は医療機器のため、調整には医師による診断や専門家によるカウンセリングが欠かせません。具体的には、次の順序で補聴器を利用し始めることが大切です。
まず耳鼻咽喉科の医師の診断を受ける
補聴器の装用が必要かどうかについて、耳鼻咽喉科を受診して医師の判断を仰ぎましょう。聞こえにくいと感じる原因が聴力によるものなのか、補聴器によって聴力の機能をサポートするのが適切かどうか、医学的な見地から判断する必要があるからです。過去の手術や病歴によっては、補聴器の装用が適さないケースもあります。補聴器の装用が必要と判断された場合には、医師から紹介状を受け取り補聴器専門店に持参してください。
補聴器専門店でプロに相談する
ご自身に最適な補聴器選びと調整を適切に行うには、補聴器の専門家である認定補聴器技能者に相談することをおすすめします。耳鼻咽喉科医師の診断にもとづき、聞こえに合わせた補聴器を装用する必要があるからです。
認定補聴器技能者は、補聴器を販売するにあたって必須の知識・技能を習得済みであることを認められたプロフェッショナルです。認定補聴器技能者が在籍している店舗については、公益財団法人テクノエイド協会が公表している「都道府県別認定補聴器技能者掲載一覧」にて確認できます。
https://www3.techno-aids.or.jp/html/pdf/meibo/02.pdf
カウンセリングと聴力測定
補聴器専門店では、補聴器の使用目的や聞こえのデータ、操作性などを総合的に判断した上で補聴器の機種を選定します。現在の生活環境や補聴器を使用するシーンに合った聞こえを実現するためにも、カウンセリングは必須です。
聴力測定では、空気中を伝わってきた音を聞き取る聴力を測定する「気導測定」、頭蓋骨を伝わってきた音を感じる聴力を測定する「骨導測定」、どの程度の大きさの音を不快に感じるかを測定する「不快閾値の測定」が行われます。
初回フィッティング
ご自身に適した補聴器を選定後、補聴効果の確認や使用する場所を想定した音環境下にて言葉の聞き取り評価を実施します。数値データ上は適切な調整ができていたとしても、補聴器を装用する方によって感じ方はまちまちです。初回フィッティングでは補聴器を装用する方一人ひとりに合わせ、補聴器を快適に使用できる状態になるよう微調整を行います。
装用開始後も微調整を行う
補聴器の調整は初回フィッティングで完結するわけではありません。実際に日常生活で補聴器を使用したところ、さらなる調整が必要になるケースも少なくないからです。また、生活環境などの変化に応じて微調整をすることもあるでしょう。装用開始後も微調整を繰り返すことにより、快適な聞こえを維持していくことが大切です。
また、補聴器の装用によって聞こえにも変化が現れる場合があります。補聴器の特性に合った聞き方や、補聴器の使用方法について継続的にアドバイスを受けることも重要です。
まとめ
補聴器は医療機器のため、装用に際して調整が欠かせません。専門家による調整を経ることで、補聴器の効果を十分に活かした快適な聞こえを実現できるのです。今回紹介したポイントを参考に、ご自身に合った補聴器選びと適切な調整を実現してください。
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